序文
第1章 「4次元世界の限界」で何が起こるか
特殊相対性理論と「4次元世界の限界」
第2章 多世界宇宙の導入
特殊相対性理論と「4次元世界の限界」
第3章 量子力学と一般相対性理論の不整合
量子力学と「4次元世界の限界」
第4章 物理現象と意識の関係
第5章 宇宙の設計思想
結論から導かれること
むすび
宇宙像を書きたいというのは私の長年の希望だった。
私が宇宙像を語る時には物質的宇宙のことだけではなく、宇宙を人間と切り離さずに語るという姿勢を貫いている。
これまでにYouTubeに発表したものに加筆し、今回ここにより詳しく纏めることが出来た。
私は宇宙と人間を知りたくて、子供の頃から宇宙には特別の関心があり、大学では物理学を専攻した。しかしそれを今振り返り、この時点では物理学が好きではあっても体系だって理解しているとは言いがたい状況であった。
自分の知識で物理学を発展させるにはあまりにも未熟であり、分からないことだらけだったが、今になって見れば「分かったつもりにならず分からないことを分からないと思えた」ことがとても良かったと思っている。
その後も常に物理学の進展に関心を持ち続けてきたおかげで、自分は何が分からなかったのかが今になってやっと分かってきたのである。
国立大学の研究機関に勤めるようになって工学と医学の境界領域での研究者として11年間就いていた経験から、物理学は全ての学問の基礎となり得ることに自信を持つことができた。
そこでは研究の進め方や論文の書き方等を自然に学んだと思う。しかし、一方で学術研究者という立場はその時代の常識に沿っていないと排除されたり、変人扱いされるという危険性もあることが分かった。その時に抱いた問題意識も含めて、これはその後の人生に大いに役立った。
その後私はIT関連の企業を立ち上げて、今度は企業活動の中で人間の脳のメカニズムを研究しつつ画像処理を主体とした研究開発をしながら、経営者としても社会に深くか変わり続けている。
会社経営に携われば否応なく組織を作り、自己責任で金銭を扱い、社会や国の行政に係わることになり、その体験が大いに人生の勉強になった。
その経営体験と画像処理の研究を通して次第に私が求める宇宙像に密に関係していったのである。
そしてそれであっても、もちろん私の最大の関心事は常に宇宙と人間の関係と宇宙像の確立と宇宙の成り立ちを知ることであった。
宇宙像と宇宙と人間の関係に関しては常に問題意識を持ち続けながら様々な超自然的な体験もして、それが数十年も蓄積され、やがて温めていたモノが頭の中で自然に纏まっていたのだ。
気がつけば私はその宇宙像を基準として生きていたのだ。この宇宙像で解釈して生きてきたのだ。それは読者の皆さんにも大いに役に立つはずだ。
だからこそ今、この大きなテーマについて私だから書けると思っている。
そこで、いよいよ纏める時期が来たと思って書き始めてみると、意外にスラスラと先に進むのでこのまま行き着くところまでつき進んでみることに決めた。
本書では「多世界宇宙・発生論」として多世界宇宙が発生する前と後に関して述べることになる。
そして、私の提唱するこの「多世界宇宙・発生論」は従来の多世界宇宙論とは大きく異なり、ただ「多くの世界がある宇宙」という点でのみ共通である。
私の長年の観察と様々な体験から宇宙を体系的に考察した結果として、私の中でこのような宇宙像に到達した。
書き始めてみて急にまとまったことや新たに関連づけられることも多々出てきた。これまでの体験や経緯が突然関連付いて、重大な意味を持ち始めることも出てきた。
一見、物理学の世界は整然と矛盾無く組み立てられているように見えるのだが、実はその理論の延長線上では決して解決できないような、その論理性から逸脱してしまうような矛盾と見えるところが幾つかある。
その物理学の論理が破綻しそうなところを深く考察することで、意識の世界への入り口を発見できるときがあるのだ。
この書ではこれらのいくつかのパラドックスを考察することで、物理学と意識の世界の係わりを見つけていくつもりである。
しかし、読者の多くは物理学の世界から意識の世界の広い範囲で思考を巡らすような議論は殆ど慣れていない筈だ。
そのことを前提に、著者としては先ず、自分の外の世界と思われている物理学の世界と自分の内側だと思われている意識の世界について、それをかみ合わせることに関する議論の組み立て方を一から準備しなければならないと思っている。
そこでこの書を読む方は、先ずは理解できる所だけを拾って戴いて、理解できないところは一旦放置して良いことにして先に進んで戴きたい。その時の問題意識を大切に残して、混乱したときには一度休んで暫く熟成期間を置き、又再び読んで戴ければ、やがて一連のこととして理解して戴けるのではないかと思っている。
多くの読者に理解を深めて戴きたいために、誰もが分かるように書きたいと思っているので、身構えなくても物理学に苦手意識がある人にでも、関心がありさえすればよく理解できるように書きたいと思っている。
幾つか出てくる専門語などの難しそうな語句は、、、それでも極力抑えたつもりなのだが、、、先ずは何となくの雰囲気で読み進んで戴いても結構である。
さし絵や図面を多用し、同じ事を多方面から何度も説明し、新しく登場する語句の定義をしながら書き進むことにした。新たな語句を定義する度に、新しい語句によって一歩ずつ議論を深め、議論はスイッチバックのように行ったり来たりして一歩ずつ理解を深めることができるように工夫した。
真理は言葉ではないし、理論でもないからこれがこのまま真理というわけではないが、真理の一面を理論的に普遍的に表現することは混迷する人類にとって大いなる希望であると信じてこの書を世に送り出す。
現代物理学の実績を急ぎ理解しておく
ここで、急いで物理学の歴史を振り返っておきたい。
なんと言っても、アインシュタインによる特殊相対性理論(1905年)と一般相対性理論(1915〜1916年)がある。それまでの物理学の手法と考え方を根本から変えて、巨視的な立場から現代物理学の基礎を作った一人である。一方アインシュタインも係わって、微視的な立場から量子力学が発展し、粒子と波動の二重性、不確定性原理、シュレーディンガー方程式などによる近代物理学の基礎が作られた。アインシュタイン以外にポアンカレ、シュレーディンガー、ドブロイ、ディラック、等によって現代物理学が構築された。
しかし、未だ現代に至っても巨視的な物理学と微視的な物理学の統合はなされていないことも知っておくべきことである。
ここ百年の物理学が到達した宇宙を表す方程式がある。それは「標準理論」として纏められている。
「標準理論」は、この世界を4種類の素粒子(電子・ニュートリノ・二種類のクォーク)と3つの力(電磁気力・弱い核力・強い核力)からなる、としている。この「標準理論」によれば、現代物理学はビックバン以来の宇宙を以下のように解釈している。
『宇宙は設計図である神の形式に従って誕生し、当初は設計図通りの完璧な対称性を保っていた。ここでの対称性とは回転対称性、並進対称性、ローレンツ対称性、ゲージ対称性、それに非可換ゲージ対称性、カイラル対称性である。そこではあらゆる素粒子に重さがなく、ばらばらにとびまわっていた。しかし、ヒッグス粒子などが引き起こす「自発的対称性の破れ」によって素粒子に重さが生まれた。その結果、素粒子がまとまり、原子が作られ、星々が輝き始め、銀河も形成されていった。』
この現代物理学の見解を、この私がどうこう評価する立場にはない、と決めて掛かっている。ここは分際をわきまえて、私の範囲を逸脱すること無くこの書を著すつもりである。しかし、このスタンスを最後まで貫けるか否か、はなはだ自信が無い。
そこでしばしば、私自身の言葉ではなく他者の言葉を借りて話すことは出来る。
このような人類の知の結晶である「標準理論」と言えど、重力に関してはまだ手つかずだ。
さらに、まだ仮説の段階であるが、2013年に発表されたプランクによれば、宇宙の全質量を含むエネルギーの約68.38%を占めるダークエナジーや26.8%を占めるダークマターについても一切解明されていない、ということなのだ。
つまり「標準理論」は未だ宇宙のほんの一部分しか説明出来ずにいて、いつ根底からひっくり返るか分からない状況なのだ。そしてこれに係わる物理学者はこれが決して完成された理論であることを認めず、これに満足せずに「標準理論」の破綻さえ望んでいて、敢えて破綻する箇所を探し続けている、ということだ。
読者の皆さんは物理学を深くは知らないとの前提で書くので、そこは安心して欲しい。時々出てくる新しい概念は、可能な限り説明を付け加えるつもりである。
先ずその中身は後に話すとして、「微細構造を扱う量子力学という学問はシュレーディンガー方程式から始まっている」ということを知って欲しい。大学で学ぶ量子力学に最初に登場してきて、学生を大いに戸惑わせる方程式だ。そして私も大いに戸惑った。実は私は今でもその時のショックの中に居る。
だからもし、独立変数が4個(x, y, z, t)のこの世界、つまり4次元世界に対応させたこのシュレーディンガー方程式という大前提が崩れれば、量子力学はたちまち破綻してしまうのだ。
そこで著者の方針としては、量子力学の大前提となっているシュレーディンガー方程式と、そこから発展したディラックの方程式を再確認してみたいと思っている。
そして次に、著者が求める宇宙と意識の関係について「標準理論」は、つまり現代の物理学は全く答えていないことを明らかにしたい。
先ず、宇宙が4次元世界ならともかく、宇宙の次元を決めることなく、4次元世界での対称性を追求することに、どれだけの意味があるのか私にははなはだ疑問なのだ。
次に、「標準理論」は意識とは無関係に構築されているということだ。一見して現代物理学のどこにも意識の入り込む隙間は無い。
そこで、著者としてはまったく別の視点から、現代物理学のいくつかの矛盾点を見いだして、その4次元世界の裂け目を強引に切り拓いて、そこに意識の介在を示し、最終的には意識を主役としてこの宇宙を語ろうとしているのだ。
そしていずれの日にか、意識を含めた宇宙の全てを著す方程式を知ることが出来ることを期待したい。
議論を進めるにはこれだけの知識で十分である。必要に応じて新しい概念を追加しながら議論を深めていく。